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東京高等裁判所 昭和39年(ラ)70号 決定

抗告人 山本行男(仮名)

相手方 山本竹子(仮名) 外五名

主文

原決定を取消し、本件を東京家庭裁判所に差戻す。

理由

本件抗告の趣旨並びに理由は別紙のとおりである。

案ずるに、判決、和解調書のみならず、家事審判法又は民事調停法による調停調書についても、明白な誤謬ある場合には民事訴訟法第一九四条によりそれぞれ更正の申立が許されるが、裁判所が申立の実質について審査し理由なしとして却下した決定に対しては不服申立を為し得ないものと解するを相当とする。蓋し民事訴訟法第一九四条に所謂「違算、書損、其ノ他之ニ類スル明白ナル誤謬」とは裁判所の真意とその表示とが不一致の場合であつて判決書自体により乃至は当該訴訟資料より判断してその不一致が明らかで裁判所の真の意思が表現されていない場合を指すのであるから、当該裁判所が申立により自らその点を審査した上、誤謬なしとする決定に対しては之が更正を更に強要することは、更正決定を認めた本旨に反するからであり、且つ現民訴法第一九四条三項と改正前民訴法第二四一条三項とを比較するも、現民訴法第一九四条三項が申立を理由なしとして却下する決定に対し通常抗告を許したものとは文理上もたやすく解し得られないからである。(なお此点につき独逸民訴法第三一九条三項参照)

ただ裁判所が申立を不適法なりとして、主張された誤謬について何等審査を為さないで却下した場合には、民訴法第四一〇条により通常抗告を為し得ると解すべきである。

しかるところ原裁判所は更正決定申立書の一隅に単に「本件申立を却下する」旨を表示し、年月日と裁判所(家事審判官)の氏名を署して捺印したのみで、果して本件申立が審査の結果実質上理由なしとして即ち当事者間には調書に記載された以外に抗告人主張の如き合意は明示的にも黙示的にも為されなかつたとして却下したのか或は不適法として(即ち実体について何等審査を経ずして)却下したのかは、原決定の上からは勿論のこと記録上も全く不明である。(抗告人の主張は登記手続について少なくとも黙示の合意のあつたことを主張しているものとも解し得ないではなく、又斯る合意が此種調停に於いて為される例の乏しくない点に鑑みれば、当該調停に関与しなかつた原決定の審判官としては当然右合意の有無を調査すべきであるのに、一件記録上之を為した形跡はない。従つて原決定の趣旨を「理由なしとして」却下したものと解するのは相当ではない)。

従つて原決定は実体について審査を為さないで更正決定の申立を却下した疑があるというべきであるから、本件抗告は理由あるものと認めて右決定を取消し本件を原審に差戻すべきものとする。仍て主文の通り決定した。

(裁判長判事 鈴木忠一 判事 谷口茂栄 判事 加藤隆司)

抗告理由 省略

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